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最高裁判所第二小法廷 昭和29年(さ)3号 判決

本籍

埼玉県南埼玉郡久喜町大字久喜本三一番地

住居

東京都練馬区江古田町二〇九三番地

会社員

橋本晃一

大正八年七月三〇日生

右の者に対する窃盗未遂被告事件について、昭和二九年四月二八日東京簡易裁判所の言渡した有罪確定判決に対し、検事総長佐藤藤佐から非常上告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原判決が本件につき刑法二五条二項を適用した部分を破棄する。

理由

検事総長佐藤藤佐の非常上告理由について。

「原審東京簡易裁判所は、昭和二九年四月二八日本件被告人が昭和二九年三月一三日午前九時頃都内国鉄秋葉原駅神田駅間進行中の電車内に於て乗客窪田日出子所携のハンドバック内より金品を窃取しようとして右ハンドバックの口金を外したが、被害者が移動したため其の目的を遂げなかつた犯罪事実を認定した上、相当法条並に刑法二五条二項等を適用して被告人を懲役一年六月に処し且つ右懲役刑につき五年間その執行を猶予すべく、右執行猶予期間中被告人を保護観察に付する旨の判決を言渡したこと、同判決は同年五月一三日確定するに至つたこと、並に被告人はさきに昭和二六年四月一一日東京簡易裁判所において窃盗罪により懲役一年、五年間右刑の執行を猶予する旨の言渡を受け、後に懲役九月に減軽、執行猶予期間を三年九月に短縮され現在執行猶予中のものであることはいずれも一件記録に徴し明白である。

ところで刑法二五条二項によれば、前に禁錮以上の刑に処せられたことがあつても、その執行を猶予された者が一年以下の懲役又は禁錮の言渡を受け情状特に憫諒すべきものであるときは再び執行を猶予することができるのであるが、一年を超える懲役又は禁錮の言渡を受けたときは、その執行を猶予することはできないのである。しかるに原判決は前示の如き執行猶予中の前科があることを認め且つ被告人を懲役一年六月に処しながら刑法二五条二項を適用し右懲役刑の執行を猶予する旨の判決を言渡したことは、明らかに右刑法の条項に違反したものであつて、本件非常上告はその理由がある。」そして原判決は被告人のため不利益でないから刑訴四五八条一号本文の規定に従い、その違反した部分のみを破棄すべきものとし、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

検察官 佐藤欽一出席

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

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